白い花(2)
「まずは5000から始めます。」
甲高い耳障りな声で競りの担当の男は叫んだ。
始値が高い。通常は1000テラシャ-テぐらいだ。
会場にはざわつきがもれた。明らかに「高い」という声もでた。
それだけの値打ちがこのアルビノの青年にはあるということだろうか。
そして競り担当の男は青年のただ一枚の薄布に手をかけ、ゆっくりと前を広げた。
青年の桃色の局部があらわになり、その下生えの色も頭髪と同じ色であることが見てとれる。
会場からは凝視と共に息をのむ音も聞こえた。
女性はベールで口を覆い、目をそむけた。
当の青年は相変わらず表情を変えない。
そして見るからに好色そうな禿げあがった中年男が手を上げて言った。
「8000。」
どよめきが場内に上がる。
「9000。」
左手の壮年の白髪交じりの男から声が上がる。
会場の視線が左手に集中した。
「10000!」
焦った声が中央から上がった。
8000をつけた男だった。
キースは壇上の青年の表情が一つも変わらない方に驚いた。
「10000が出ました。後はありませんか。10000・・・・」
「12000」
冷静な声が左手から上がる。
会場の関心はどちらの男がこの白鳥を競り落とすかに集中していた。
不意にキースが馬から降り、声を張り上げた。
「15000」
「何をなさるんです!こんな競りに関わってははいけません!」
側近のマツカがキースの袖を引いた。華奢な体躯の割には強い力だった。
「悪いようにはしない。ひっこんでろ」
キースはマツカの細い身体を横におしやり、一歩前に進んだ。
人垣が彼の周りからさっと引く。威厳のある黒い姿に周囲が息をのむ。
壇上のアルビノの青年がキースの方を見た。
そして眼だけで笑った。キースは初めてこの青年の表情が揺らぐのを見て、心が騒いだ。
「15000が出ました。さあ、後はありませんか」
「17000!」
脂ぎった声が中央から響く。見るからに執着が見てとれる。
その男の横からもたしなめる別の男の姿が見えた。
左手の男はその男を見るが頭を横に振る。
どうも資金が尽きたらしい。
「17000。次はありませんか・・・・・では・・・」
「20000。」
「キース王子!止めてください」
冷静に数字を上げるキースをたしなめる高い声に周囲が振り向く。
「黙ってろ。」
自分に向けられる注目にいらつき、キースは舌打ちをする。
「王子だと!」
「キース王子が来てるのか!」
「こりゃ、かなわないな」
ざわついた会場に心なしか担当の男の声がすぼむ。
「20000が出ました・・・!では、決定!!」
パンパンと槌の音がする。
「本日の競りはこれで最後だ。さあ、散った、散った!!」
会場にはどよめきとため息が渦まいた。
ばらばらと人波が散らばる中、キースと側近だけが会場にのこった。
競りで声を張り上げていた男が歩み寄り、頭を下げ、「おしるしをいただきます」と言った。
キースは砂金の入った砂袋を渡し、「残りは城に取りに来い」と告げた。
壇上には腰布一枚の青年がぽつんと立っていた。
キースは舞台に近寄り声をかけた。
「名前はなんという」
「さあ。君が付けるといい」
青年は低い声で悪びれずもせず、答えた。
自分を「王子」と知って「君」と呼ぶ。
これが競り落とされ、素裸で壇上に立っていたものの言い方なのか。
キースは腹が立つというより、興味がわき、青年のいる壇上に上がった。
「では、つけてやる。貴様は『ブルー』だ」
その名前に一瞬青年の赤い目が揺らいだ。
だがすぐに笑みが返って来た。目だけでなく顔全体の笑み。
「君のなすがままに」
キースはブルーに自分のマントを着せ、馬の前に乗せた。
その時ブルーの表情が勝利の笑みに輝いたのをキースは気付かなかった。
「帰るぞ」
馬に鞭を入れ、キースは走り去った。
あわててマツカと数人がそのあとを馬で追う。
誰もいなくなった会場に女性用のベールをかぶった青年が去っていくキース一行を見ていた。
「よろしいのですか。追わなくても」
大人しそうな青年がたずねた。
尋ねられた青年はベールを脱いだ。
明るい金髪が輝いた。
「行き先は分かっている、リオ。」
「彼は王宮に潜入するためにチャンスを狙っていた。目立つ容姿を逆手にとってね」
緑の意志の強い目が輝く。
「無事に済みますでしょうか、シン様。」
「大丈夫。彼ならきっとうまくやる。」
「大丈夫、ブルー、きっと僕が助け出すから・・・」
青年は唇をかみしめ、こぶしをにぎった。
夕日が背中を照らしていた。
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このあとどうしよっかな~
思いついたら書きます(^^)
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